僕の神さま
13
「公約とかいるんじゃない?」と、千夏が言った。
伸ちゃんの部屋で、第一回の作戦会議だった。
「ウグイス嬢やるんだ」と、だーうえが言った。
「女子中学生がやるわけねーだろ」
「あかんの?」と、伸ちゃんが言った。
「あかんやろ?」と、千夏が言った。
僕も、だめだと思う。どうなのかな。
期末テストは、散々だったけど、とにかく夏休みに突入したのが僕は嬉しかった。
「市長選はいつなの?」と、だーうえが訊いた。
「9月だよ。もう、一ヶ月しかないんだ。お盆もあるし」と、伸ちゃんが言った。
「こんなとこでダベってて大丈夫なんですか?」と、だーうえが言った。
「ダベってない。作戦会議」と、千夏が言った。
「午後から、散髪に行くんだ」と、伸ちゃんが言った。
「散髪?」と、千夏が言った。
「市長らしい髪型があるやろ。その後、キムジーが選挙ポスター用の写真を撮る手はずなんだ」
「キムジーは、そのままでいいって」と、僕が言った。
「不精ヒゲは剃ろうよ。汚いし」と、千夏が言った。
「無頼派な感じでいける?」と、伸ちゃんが言った。
「ブライハってなんや?」と、だーうえが言った。
「カミさんいる?」
声をする方を見ると、縁側にキムジーが立っていた。
首から、古風な二眼レフカメラをぶら下げていた。アロハにビーサンを履いた怪しげ格好だ。
「なんか、見当たらないんだ」と、伸ちゃんが言った。
神さまは、いつもふらっと現れてふらっと消える。いつものことだった。
キムジーの横に、泥の仮面をつけた男が3人立っていた。
「トゥさんたち連れてきた」と、キムジーが言った。
泥の面をつけ、上半身は裸だ。植物で編んだ腰蓑をつけている。
「その格好で来たの?」と、千夏が言った。
「みんなには、見えないから大丈夫だ」と、緑の仮面の男が言った。
「俺たちは見えない」と、真ん中の赤い仮面が言った。
「見えないんだ」と、右の青い仮面が言った。
「なんだかねー」と、キムジーが言った。
☆
「伸ちゃん、写真撮ろう」と、キムジーが言った。
「これから散髪してくるから」
「いらんいらん」
キムジーは、二眼レフカメラを上から覗きながら言った。
「ポスターだから、その格好はいけてないよ。ジャージだし」と、千夏が言った。
「いらんいらん」
伸ちゃんが、キムジーに何か言おうとすると、カシャっとシャッター音が鳴った。
「なんだかねー」
「どこで撮るの?」と、僕が訊くと、
「いま、撮った」と、キムジーが言った。
いくらなんでも、それはあんまりだろ。
「それ、早くポスターにしようよ」と、神さまが言った。
いつの間にか部屋に座り、湯呑でヌルい麦茶を飲んでいる。
「あんたおったんや」と、キムジーが言った。
「ずっと」と、神さまが言った。
まともな選挙ができるのか、僕は不安になっていた。
つづく
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