「お金がない人は、強い」
と、弁護士が言った。
「それはどうして?」
「究極、20万くらい払って破産すればいいですから。お金を稼ぐだけ稼いで、隠して破産する。まぁ、詐欺師がよくやる手です」
実は、友人のデザイナーとカメラマンが詐欺にあったことがある。
仕事をしてお金をもらうだけの、フリーランスがなぜ詐欺に? と思ったけど、とても巧妙なのだ。
「イベントをやりたい」と、詐欺師のNがデザイナーに相談を持ちかけたのが最初だった。
Nが持っているブランドのイベントで、雑誌に広告を打つ相談だ。
あごヒゲにサングラス。腕には、入れ墨がある。バイクのカスタムが趣味だと言う。
Nは、ハーレーに乗るワイルドな男向けアパレルのオーナーだった。
で、デザイナーは知り合いの雑誌社にNを紹介し、広告を作ることになった。
チラシ、ブログ、イベント会場の手配、Nは次々とデザイナーに仕事を発注した。
チラシ料金などは、デザイナーの立替だ。聞くと結構な金額だった。
基本、Nは支払いはしない。
Nの狙いは、ブランド会社を立ち上げるお金を銀行や出資者から集めることだ。
広告を出したり、イベントを開催して信用させ、お金を短期間で集めて逃げるのがNの手だ。
イベントが終わり、数ヶ月が過ぎた。
「いくら催促してもお金が支払われない」と、カメラマンは激怒した。
やっと連絡がついたNと、カメラマンは会うことになった。
で、カメラマンが帰ってくるとニコニコして「Nさんは、いい人だよ」などと言っている。
「いままで、ニューヨークにいて連絡がつかなかったんだ。マンハッタンに店を出すから、仕事を手伝って欲しいって頼まれて。来月、アメリカに行くことになった」と、カメラマン笑いながら言った。
すぐバレる嘘だけど、Nと会って話をすると魔法のように引っかかるのだ。
なにかの才能だと思う。
結局、デザイナーとカメラマンは訴訟を起こす(もちろん勝った)。しかしNにお金がなく、彼らは裁判費用と弁護士代を支払うだけになった。
請求しても、Nは一文無し。ということらしい。
隠しているんだろうけどね。
弁護士が言う「強い」というのは、こういう事なのか。
今でも、インターネットでNを時々見かける。
聞いたことのない会社の投資顧問の肩書で、投資家を集めるイベントを主催していた。
今度は、インテリ風のスーツに気障なメガネをかけて…。
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
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男殺しのオイルサーディン丼。クラウドファンディング、リターン中。
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