7000人が来た、観た。勝った!
中秋の名月が、ポッカリと浮かんだ。
雲一つない空の下だ。
リハーサルは、強い川風に悩まされた。
晴れただけで、野外イベントは成功なのだ。と思っていたけど、晴れたら晴れたで、寒いだの、風が強いだの、と欲が出てくる。
そんなもんだよね。
設営は、朝7時から。
次々と機材が運ばれ、ステージが組まれる。
何もない河川敷が、たちまち『千人の月見の宴』会場になっていった。
午後2時頃、宇崎竜童さんが現れリハが始まった。
会場には譜面台が飛ばされそうな冷たい風が吹いていた。
マイクに風が当たって、ゴロゴロと遠雷のような音をたてている。強化ダンボールで造ったステージキッズの上は、大荒れである。
「頭から」と、宇崎さんが低い声でバンドメンバーに言った。
ドラムが音を刻み、ギターに合わせ宇崎さんがブルースを歌う。
風が容赦なく吹きつける。それでもブルースバンドは何事もなく宇崎さんの声に合わせていた。
「俺の声はこのままで、ギターの音がもっと欲しいね」と、宇崎さんが音響に指示をする。
リハの時間は、45分だ。
ギリギリまでねばって、バンドは音の調整していた。
最高の歌を聞いてもらいたい。そんな思いが伝わってくる。
プロの仕事だった。
5分くらいで、チャチャっとやってお終いかな。などと、勝手に僕は思っていた。
ごめんなさい。
リハが終わった。
「この風なんとかならねぇかな」と、宇崎さんがステージの上で独り言のように言う。
「夜までに、風は止めときます」と、僕は、思わず誰もいない客席から叫んだ。
「本当かよ!」と、宇崎さんがステージの上でおどけて答えた。
僕も、ココロなかで「本当かよ!」と、同じく思っていた。
思いは通じる。
日が落ちる頃には、風はピタリと止んでいた。
東の空には、ポッカリと大きな月が出ている。
中秋の名月である。
月が出たら『千人の月見の宴』は、僕たちの勝ち。
火入れの儀、能楽師・辰巳満次郎による薪能『黒塚』に続き、宇崎竜童のブルース。
宴はあっという間に終わった。
次の日、片付けが終え、僕は何になくなったいつもの河川敷をぼんやりと眺めた。
まさに「何もかも夢幻のとごくなり」である。
僕たちの夢に参加していただいた全ての人に、本当に感謝します。
ありがとうございました。
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