能楽師・辰巳満次郎を取材した。ぴあのね。

普通じゃやならいことに、挑戦したい。

 

重要無形文化財能楽師・辰巳満次郎さんに会ってきた。

ぴあの取材である。

 

僕は稽古をしている香里能楽堂を訪ねた。

部屋に通され待っていると、満次郎さんの謡(うたい)が別の部屋から聞こえてくる。

お弟子さんの謡の声が続き、今度は、二人合わせた謡になる。

緊張感が、僕のところまで伝わってきた。

 

シンとした能楽堂は、古い木造家屋の匂いが漂っていた。

芸の霊気が、一緒に漂っているようだ。

謡が止んだ。

しばらくすると、

「すぐに来ますから」と、ひょっこり満次郎さんが襖を開けて顔を出した。

次の稽古の合間に、僕は取材をお願いする。

 

「サプライズを考えています」と、満次郎さんは言う。

席についた満次郎さんは、いくらか顔が上気しているように見えた。

観客に驚いてもらう演出を考えていると言う。

とはいえ、野外での黒塚の演出は、難しいとも。

僕は、黒塚について訊ねてみた。

 

「能には、完全なる悪が意外といません。黒塚で登場する般若は、人間が鬼になったことを表現してます。昔の鬼は角もはえてない。人間なんです。最後に鬼はどうなるか? と言いますと、日本では鎮魂される、とされています。では、なぜ、鬼になったかが能の世界で表現されます」

満次郎さんはしばらく沈黙し、話を続けた。

 

「鬼は首をはねられたりしないし、勧善懲悪もない。第一、主役です。虐げられた女性とか、霊とか、鬼、弱者が主役になるのが能のよいところです。

単に恐ろしいのではなく、悲しい。鬼になった女は、自分の罪を償いたいと思っていいます。

 

丁度、山伏が泊まったので、一生懸命もてなして、自分の心を鎮めてもらいたい。山伏のために薪を取りに行くシーンで、自分の寝室を見るな。と、言い残して薪を取りに出かけます。

 

でも結局、山伏に見られてしまう。

頼りにしていた聖職者の山伏にも裏切られる。それで女は鬼になってしまいます。

本当は、殺すつもりなどありません。その証拠が、背負っている薪なんです。殺すつもりなら、薪はいらない」

「鬼女は、山伏に救われませんね」

「最後、退散しますが、永遠に人を食っていかなければならない。そんな悲しい結末になっている。恐ろしく悲しいお話です」

 

「般若の表情も、どこか悲しい?」

「鬼は、どこか悲しみの顔になっています」

「恐いですけどね」

「月を見る場面がでてきます。月夜の晩のお話なんです」と、満次郎さんは言った。

 

黒塚は、中秋の名月の晩に相応しい演目だと言う。

能楽ファンでなくても、満次郎さんのサプライズが待ち遠しいのだった。

 

文:川はともだち 代表 紙本櫻士

 

千人の月見の宴

チケットぴあにて、発売開始。ネットはもちろん、電話でも買えるということで、アナログな方にも優しいのだ。
0570-02-9999(Pコード 481-199)

 

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