やがて悲しき、鬼女。
10月4日(水)『千人の月見の宴』で、重要無形文化財シテ方能楽師・辰巳満次郎が舞うのは『黒塚』である。
安達ケ原の鬼女が登場する恐い能だ。
まぁ、ホラーである。
中秋の名月に照らされる中演じられる月夜のホラーは、時代を越えた『幽玄』の世界だったりする。
巡礼の修行僧・阿闍梨祐慶(あじゃり・ゆうけい)一行は、人里離れた安達ケ原で夕暮れを迎える。
今夜、どうしようかと困っていると、月明かりに照らされたあばら家が、一軒。
一行が訪ねてみると、老婆がひとり住んでいるのだった。
「一夜の宿をお貸し願えないか?」と、祐慶たちは老婆に頼む。
「あまりにみすぼらしい家で、恥ずかしい」と老婆は一度は断るのが、重ねてお願いする祐慶たちを泊めることに…。
部屋に入ると、一行は見慣れぬ道具が目についた。
「これは?」と誰かが老女に尋ねると、
「私のような卑しい身分の者が、扱う糸繰りの道具です」と答え、「このように」と、実際に動かして見せてくれる。
そうこうする内に、夜がふけていく。
「老女は暖を取る薪を取りに行くので、お休みください」と、女は一行に告げる。
「絶対に、この部屋は覗かぬように」と、言い残して。
鶴の恩返しでもお馴染みの「絶対に覗かないよう」は、絶対見てしまうだった。
お約束である。
覗くとそこには、おびただしい人骨が…。
老女は、安達が原でいま話題の鬼女だったのだ。
一行はあわてて宿を後にするが、女は鬼に変身し追いかけてくる。
これは恐い。
祐慶一行は数珠を片手にチカラを振り絞って祈ると、鬼女はやがて弱っていき夜に紛れるように消えていく。
室町時代に作られた『黒塚』は、当時の貴族たちに人気の鬼女ものだ。
「もう、あなたは逃げられない。Coming Soooooooon!」
そんな感じで、観に行ったのだろうか。
現代では考えられない貧困にあえいでいた人たちは、人肉を食べて生き延びていたという恐ろしい記録が残っている。
そんな悲しい物語を、能は芸術に昇華して、いまの僕たちに伝えているのかもしれない。
『黒塚』を、能楽師・辰巳満次郎がどう切り込むのかが、いまから楽しみである。
クラウドファンディングは、おかげさまで成功に終わりました。
「月夜のホラーと、竜童のブルース」のお席は、チケットぴあで申し込めるよ。
薪能『黒塚』は19時頃から、宇崎竜童のブルースは20時頃からです。
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
チケットぴあにて、発売開始。ネットはもちろん、電話でも買えるということで、アナログな方にも優しいのだ。
0570-02-9999(Pコード 481-199)
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