なめていた。
一週間前くらいに『ぴあ』か、ローソンでチケットを買えるだろう。と、思っていた。
場所は、新歌舞伎座だ。1600以上席がある。
ところが、全部完売。
宇崎竜童は、大人気なのだった。
コンサートの日、マネージャーの橋爪さんと『千人の月見の宴』の打ち合わせがあった。
打ち合わせ後、なんとかライブを見たい。
宇崎さんは、すぐそこにいるのだ。
橋爪さんにお願いして、なんとか関係者の席に潜り込むことができた。大感謝である。
みーやんと広瀬と、僕の三人。
みーやんは、コンサートからの参加だった。
開演までは、時間がある。
ホールのバーで広瀬とビールでも飲みながら、みーやんを待つことにした。
「客層の年齢が高いね」と、広瀬が言った。
確かに、僕たちより年上の人たちが多かった。
アロハに帽子をかぶった団塊の世代っぽ人も目につく。それから、粋なおねーさんも。
能ファンと年齢が近いように思える。
しばらくすると、みーやんが現れた。
「圧倒されますね」と、入口から入ってくるファンたちを見ながらみーやんが言った。
僕たちの席は、最後列だった。
「阿木燿子が座ってるよ」と、みーやんが言う。
見ると僕たちの左側に、阿木燿子が座っていた。
どうやら、ここは関係者の席らしいのだった。
つかみの曲がいい。
イカしてる。という言葉は、宇崎竜童のためにあるんじゃないか。と、僕に迫ってくる。
ダウンタウン・ブギウギバンドの頃とちっとも変わらない声だ。
でも、しっかり新しい。
舞台で走ったり、リードギターと一緒にカラダを揺らしたりするシーンは、この人は本当に音楽が好きなんだな、と僕たちに告げていた。
「今年の四月に、宮中晩餐会に呼ばれたんです」と、宇崎竜童がマイクを片手に話し始めた。
「途中寝るかもしれない」と言っていた広瀬が、「ええ男や」と連発して見入っている。
「スペイン国王が来賓なんだけど、天皇皇后両陛下から皇太子殿下、安倍首相と閣僚、大きな会社の社長さんたちでいっぱいでした。実は、呼ばれたのは奥さんで『フラメンコ曽根崎心中』をやっているからで、招待状に配偶者と書いてあって、あれ俺って配偶者? と思って『行っていいの?』『来れば』という参加だったんです。
会場で、安倍さんが俺に近寄ってきて『宇崎さんは、スペインと何か関係あるんですか?』と聞かれて、たぶん、みんなそう思ってるんだろうけど『フラメンコでスペインとの文化交流をしている奥さんの配偶者なので…』と、答えときました。そうだからね。
テーブルに座ると『スペインと関係あるんですか?』と、みんなに聞かれまして、いや配偶者でと。
僕はアルコールがだめで、飲めないのですが、乾杯の音頭が天皇陛下です。そんな経験はまずないわけで、少しだけシャンパンをいただこうと思い、なんだか手が震えて、ついぐっと飲んでしまいました。まずいなぁ、と思っていると、今度はスペイン国王の乾杯です。そんな経験は普通ありません。これはいただかないと、とまた手が震えて、ぐっと行ったら、後は記憶がありません」と、宇崎さんのMCも面白おかしく聞かせるのだった。
アンコールは、4回。
あっという間の2時間半だった。
ライブのために書いた新曲アッパレブギウギ(アンコールのための曲だと思う)が秀逸で、昔のヒット曲をアレンジした、ご機嫌な作品だった。
ウルフルズあたりが、歌いそうな、2017年の香りがする懐かしく新しい作品である。
宇崎竜童は、新しい。
挑戦を続けている人は、青春が続いている。という、安藤忠雄さんの言葉を思い出していた。
宇崎竜童が、僕たちの『千人の月見の宴』で歌ってくれる。
聴かずに死ねるか! の一期一会の夜だ。
宇崎ファンも、大勢来るだろう。
もちろん、能ファンも!
僕たちみたいに席がなくなるかもしれないから、お早めに予約をおすすめします。
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
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