俺は買わない。
「簡単に作れるステージキットを作ったのんだけど、売れるかな?」と、僕は聞いてみた。
「いくらするの?」と、ライブハウスを経営してる佐藤さんが訊いた。
店が休憩中の午後3時頃、店の前でタバコを吸っていた佐藤さんに、ちょっと寄ってけよ、と呼び止められたのだ。
「高さが20センチで、縦と横が120センチのやつが、2万くらいかな」
「高いで、それ」
僕は、ビールを注文した。佐藤さんは、ビールをグラスに注ぎに立った。
「一回きりやろ?」と、席に戻って来た佐藤さんが訊いた。
テーブルにビールが入ったグラスが2つ並んでいた。
「何度も使えるんだ」
僕は、そう言うとビールを一口に飲んだ。
「水に濡れたらあかんやろ」
「コーティングしているから、ある程度は大丈夫だよ」
「重い物は無理やで」
「10トンくらい平気」
なんだか反対意見をわざとするディベートになっていた。
「俺やったら、木材を買ってきて自分で作るわ」
「木は高いよ。それから、作るの大変だし」
佐藤さんは、しばらく黙ってなにか考えているようだった。
「いくらならいいの?」
「只やったら」
それは、無茶だと思った。
「このビールは只じゃないじゃない」と、僕は言った。
「俺は買わないな」と、佐藤さんはビールを飲み干して言った。
佐藤さんが、(只なの欲しいのに)買わない原因はなんだろう? と僕は考えた。
まだない商品の値づけは難しい。
アルミなどを使った簡易ステージはあるけど、ひとつ15万とか28万とか、値段が全然違っていて参考にならない。
ステージキッズに色をつけてみたいな、とか、選挙専用を作ったらどうだろう? とか、やりたいことは沢山ある。
それぞれに原価が違うし、適正価格もある。
ステージの市場はある。
その市場に、どうステージキッズを届けるかが課題だった。
一緒に、製品を育てていったり、製品のよさを理解してくれるファンを探そうと思う。
そこから広げていくのが、製品にとって幸せだろう。
佐藤さんは、みんなが安心して使えるようになったら、手に入れたい客なのだと思う。
新製品は、まず客よりファン作りだ。
一緒に、儲ける仲間もね。
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
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