写真撮っていいんだ。
ニューヨーク近代美術館もそうだったけど、アメリカの美術館は写真がオーケーなようだった。
日本なら、作品にカメラを向けると監視員が飛んできそうなのに。
調べてみると、日本でも撮影できる美術館もあるから、何か理由があるのかもしれない。作品が痛むから、どこでもフラッシュは禁止である。
僕たちは、チケットを買って荷物を美術館に預けた。
さぁ、行こうか! と歩き出すと、
事務局の広瀬がwi-fiを鞄の中に忘れたという。別になくても、よさそうなものだが「ないと不安なので取りに行く」と、足早に美術館のクロークに向かう。
「おばさんが怖ぇんだ」
と、しばらくして戻ってきた広瀬が言った。
「『鞄の中にwi-fiを忘れたので、取り出したい』って、スマホに翻訳してもらって係のおばさんに見せたら、顔色変えて『ノー!!!!』って叫ぶねん」
そのおばさんの対応が凄かったらしい。
手を横にビシっと降って、ノー!! と叫ぶ。
「隣にいたもう一人の女の子が『この人は、鞄の中の忘れ物を取りたいだけよ』と、おばさんに言ってくれて助かってん」
アメリカのおばさんは、最強かもしれない。
でも、よく考えると、おばさんの態度は分かりやすい。
「実は規則で、一度預けたものは帰るまで取り出せないのです」とか、言われても英語が苦手な広瀬には通じない。
そんな時は、絶対「No!!!!!!!!!!!!!」が、正しい。
一発で、ダメだと分かるから…。
それ以後、
「これちょっと持ってくれない」などと、広瀬に頼むと、
「ノー!!!!!」と、アメリカおばさん方式を採用するようになった。
やめてください。
平日の美術館には、高校生や中学生の集団が見学に来ていた。
僕たちがぞろぞろ歩いている彼らに巻き込まれながら歩いていると、ミレー『種をまく人』が展示してある。おっと、これは岩波文庫のトレードマークでお馴染みの絵画ぢゃないか。
日本に来たら、おそらく何時間も待たないといけないような作品である(そんなのだらけだったけど)。
ところが彼らは振り向きもせず、ぞろぞろとミレーの前を通り過ぎていく。
集団が通り過ぎると、
『種をまく人』は、ホテルにある賑やかしの絵画のようにひっそりと壁にかかっていた。
ちなみにミレーの『種をまく人』は、2点ある。
一点は、ここボストン美術館で、もうひとつは日本の山梨県立美術館だ。
ふたつを見比べると、ボストンがはっきりしていて、日本のはぼんやりとした印象だ。両方、本物(ということらしい)。
ミレーは、二枚描いたという。
ボストン美術館では『種をまく人』は、ほとんどの人が気に留めない。でも、僕が聞いたこともない、アメリカ建国の偉人の肖像画に彼らは集まっている。
ベンジャミン・フランクリンとかじゃなくて、日本人には馴染みのない人物画だ。勝海舟とか、井上聞多とか、坂本龍馬みたいな、アメリカ人なら誰もが知っている有名人かもしれないけど。
僕たちとの価値観の違いを感じるシーンだった。
快慶が作った最古の仏像もあったけど、やはりひっそりと展示されていた。
こんなところに、あったんだ。と、その金色の像を僕はしばらく見入っていた。
美術館を出ると、僕はボストン交響楽団を聴くために電車に乗った。
美術館駅から二駅だから、近い。演奏までには、まだ、時間がある。
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
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