マンハッタンのシメは、ラーメンだ。
「ブロードウェイで『キャッツ』が見たい」
という広瀬のリクエストで、僕たちはブロードウェイに向かって歩いていた。
来てみるとマンハッタンは思ったより狭く、歩いてどこでも移動できる感じだった。
トランプタワーもセントラルパークも近代美術館もブロードウェイもね。
そして、
マンハッタンの人たちは、忙しい。
実際に忙しいのかもしれないけど、気持ちが忙しいように思う。
東京の忙しさとも似ている。
「チケット買ってへんけど、どうすんの?」と、広瀬が不安そうに言った。
どうも、広瀬は外国が苦手らしい。どこかオドオドしているのだ。
「チケッツって、店で当日券が手に入るんだよ。半額くらいで」と、僕が言った。
「売れ残ったチケットを販売してるのかな?」と、みーやんが言った。
「そうかもね。劇場に行って抽選で買う手もあるらしい。それだと激安でいい席を手に入れれる。でも、面倒だし、当たらなかったら見ることができない」
『Broadway』という、標識が目に入ってきた。
ここからブロードウェイだ。映画などで見た風景が目の前にあるので、ちょっと嬉しい。
タイムスクエアに向かって歩いていると、左側に大きく『TKTS』と書かれた赤い看板が見えた。僕たちが目指していたディスカウント・チケットを取り扱う店だ。
ボードを見ると、キャッツが半額で売っている。他にも『シカゴ』とか『ミス・サイゴン』とか、いろいろ。そうか、米倉涼子はここでやったんだ。とか、思いながらミス・サイゴンのデカイ看板を歩きながら観ながら思った。
「JCBのカードが使えへん」と、みーやんが窓口から戻って言った。
実は、ニューヨーク近代美術館でも、JCBは使えない。現金を持ち歩くにはなにかと危ないので、カードで支払いとみーやんは決めていたのが、アダになった。
できるビジネスマンを目指していたみーやんだけど、貧乏ビジネスマンになってしまった。
仕方なく、僕が立て替える。VISAかマスターカードなら、大抵使えるのだ。
席は、前から3列目だった。
役者たちの動きや、息遣いが迫ってくる。
目の前で観るする『Cats』は、圧巻だった。
ひとりひとりの個性が、素晴らしい。
決してビシっと揃ってるわけじゃない。猫たち一匹一匹の、主張が伝わってくる。
日本の劇団四季のキャッツは、ビシっと揃った動きが気持ちいい。
比べてみるのは失礼かもしれないけど(それぞれの良さがあるから)、通奏低音のように流れるアメリカ人の哲学が違うように思えた。
例えば日本人は、北朝鮮のマスゲームができるけど、アメリカ人やイタリア人には無理。ということである。
「キャッツを観たから、もう、やることは終わった」と、帰り道歩きながら広瀬が言った。
話し方が疲れているように見えた。
「ボストンのジャパンフェスティバルに来たんじゃないか」と、僕が言った。
「あたしは、電池が切れたから」
「どんだけ少ない電池なんだ」
「ラーメン屋がありますよ」とみーやんが言った。
博多拉麺という提灯が見える。
ニューヨークに『一風堂』が進出しているのは知っていたけど、実はラーメン激戦区らしい。
僕たちが入ったのは博多ラーメンの『西田商店』である。
で、とりあえずビールで乾杯する。
写真を撮って日本の友だちに送ると「京橋あたりで飲んでるんちゃうの?」と、返事が帰ってきた。僕もそー思う。
ただ、丼がアメリカサイズで、食べるのが大変だった。まるでラーメン二郎だ。
ホテルに帰ってシャワーを浴びたら、次はブルーノート。
すでに、ぐったりだけど…。
文:月見の宴実行委員会 代表 紙本櫻士
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