「あのおっちゃん、銃に指がかかってるやん」
と、警官を見ながら広瀬が言った。
トランプタワーの前を通った時である。
どうも警備の仕方も日本の警察とは違う。バラバラというか、今にも銃を抜きそうな保安官がいっぱいな感じだ。
昨日、ニューヨークに住む岡田からトランプタワーは普通に入れる、と聞いていたけど、これは普通なのか?
僕たちは入り口で簡単なチェックを済まし、中に入ると辺りは金色で埋め尽くされていた。大理石は赤、金属は金である。これぞ成金。豊臣秀吉もかくや、である。
僕たちは、金色のエスカレーターに乗って二階にあるスタバに行くことにした。今日の作戦会議だ。
「こっからセントラルパークに歩いて行って、美術館に行って、ブロードウェイに行って、夜は、ブルーノートでジャズ?」と、みーやんが観光案内を観ながら言った。
「しんどくない?」
そう言うと、アメリカサイズのカップでコーヒーを広瀬が飲む。
「明日はボストンなんだから、今日、マンハッタンを観光するしかないじゃん」と、僕もコーヒーを飲みながら言った。
「美術館は、メトロポリタンより、近代美術館がいいな。現代アートが見たいから」
「ブルーノートは外せない」と、ギターを弾くみーやんが言った。
「キャッツも外せない」と、広瀬も続けた。
「ブルーノートで、一瞬、舞台に乗るから写真を撮ってくれへん?」と、みーやんが言った。
「怒られない?」と、広瀬が言った。
「銃で撃たれたりはせぇへんやろ」と、みーやんが言った。
「いや、撃たれるよ。きっと」と、僕が言った。
トランプタワーからセントラルパークは歩いてすぐだ。
ホットドック屋が並ぶ道を歩いていると、背の高い黒人のビラ配りが、声をかけてきた。
「広瀬、声かけられてるよ」と、僕が言った。
「え? あたし?」
「だって、Hey! beautiful girl! って」
「可愛こちゃんって言ってるんだから、ビラくらい貰ってやれよ」と、みーやんが言った。
「ガン無視はないな」と、僕が言った。
「可愛こちゃんなんて、言われたことないから」
観光客を乗せる馬車が、7台くらい連なっていた。今日は、小雨が降っているから、乗る観光客は少ないようだった。鳩が、馬のエサ箱に群がっていた。
アメリカに来て思ったのは、僕たちが受けてきた義務教育のスゴさだ。
早口の英語は聞き取れないけど、基本、中学英語でなんとかなる。スタバでコーヒーを注文したり、人に道を聞いたり、バーでビールとツマミを頼んだり、大体なんとかなる。
例えば、道で地図を見ていると、
「May I help you?」と、髭をはやした紳士が「何かお困りかね?」と、話しかけてくるし。
英語はなんとかなるのだった。
何が大変って、きっと、お金がないことだろう。
お金がないと、日本でだって困る。
ニューヨークに来て、これなら何とかなるな(英語だけじゃなくて)と思った。
何がなんとかなるかは、上手く言えないけど、そう、勘である。
なんくるないさ、で行こうじゃないか。
文:月見の宴実行委員会 代表 紙本櫻士
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