ダンボールの上で
「能を舞ってください」
と、お願いするために、僕は寝屋川にある香里能楽堂で重要無形文化財能楽師・辰巳満次郎さんに会いに行った。
それを伝えるのが、代表の仕事だと事務局の広瀬と舞台監督の山代さんが言う。
「絶対やめてください」と言っていた山代さんは、すっかり宗旨変えをしたのだ。
能楽堂の控室で待っていると、舞台で演目『土蜘蛛』のクライマックスのようだった。激しい鼓の音と地謡が控室まで迫ってくる。
緊迫感が、舞台裏から伝わってきていた。
しばらくすると、ざわざわとした人の声が聞こえてきた。
終わったらしい。
なんだか、ほっとして僕が控室で冷たいお茶を飲んで待っていると、満次郎さんが襖を開けて現れた。
黒い能装束を着、額が汗ばんでいる。能舞台から何かを持ってきているのか、不思議な空気感を漂わせている。
「折角いらしたのですから、舞台を観て待っていただいたらよろしかったのに」と、満次郎さんが正座をして言った。
僕は、去年の出演のお礼を言い、第二回目の『千人の月見の宴』について簡単に説明をした。中秋の名月の日にやるので、平日になること(前回は、たまたま日曜日でした)、雨天の会場のこと、来場する人数予想などである。
そして、世界初の強化ダンボールで造る能舞台について…。
「どんな場所でも、われわれは舞います」と、満次郎さんはゆっくりと答えた。
「初めての試みですが、どうぞ、お願いいたします」
「外国で能をやる時、何もない場所で舞うこともあります」
そう言うと、満次郎さんはお茶を一口飲んだ。
「ダンボールで創った能舞台は、面白いと思いますよ」
ありがたし。
※写真は、能舞台を使ってジャズを演奏しています。
文:月見の宴実行委員会 代表 紙本櫻士
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